中国と韓国の歴史戦争本格化

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 昨年暮に、興味深い記事が産経新聞に載った。中国と韓国が高句麗という朝鮮の古代国家を巡って領有権争いをしていると言うのである。
 最近の日本の風潮は、歴史にしても領土にしてもどこか相手の機嫌をそここねないように及び腰の論調が目立つが、隣の国韓国は意気盛んである。
 そもそも、歴史というのは多くの血が流された事件に対する評価であり、当事者の名誉に深く関わることである。そのことをないがしろにする民族なり国家はやがて、存在の基礎をなくし衰退から滅亡に至ると言われている。
 日本の現状と世界の動きから良い事例だと思うので、少し長い引用になるが最後まで読んでいただければ幸いです。 

(平成16年1月24日 金山 武)


中Vs韓 高句麗めぐり「歴史戦争」本格化

2003.12.29 産経新聞社 東京朝刊 5頁 国際面 図有 (全1150字) 


 ■中国・辺境史の一部と位置付け

 ■韓国・古代朝鮮民族国家の一つ

 【ソウル=黒田勝弘】古代・高句麗(こうくり)の歴史は韓国のものか中国のものか−をめぐる韓国と中国の“歴史戦争”が本格化してきた。「高句麗は中国史の一部」とする中国に対し韓国では学界や政界、マスコミなどが「歴史侵略」「歴史帝国主義」と猛反発しており、韓国政府も高建首相が最近、政府研究機関が加わった「高句麗史研究センター」の設置計画を明らかにし対応に乗り出した。

 一方、中国側は先ごろソウルで開催された関連のセミナーへの学者の派遣を中止したほか、北朝鮮がユネスコ(国連教育科学文化機関)に申請している高句麗古墳の世界文化遺産登録に反対の動きを見せている。

 中国は来年六月、中国・蘇州で開催されるユネスコ世界遺産委員会総会で、中国内に存在する高句麗遺跡の方を世界文化遺産として登録させるのが狙いといわれる。

 高句麗は紀元前後から七世紀半ばにかけ中国東北(旧満州)から朝鮮半島北部に存在し百済(くだら)、新羅(しらぎ)とともに三国時代を形成した朝鮮の古代国家の一つとされてきた。

 これに対し中国は最近、高句麗の歴史を中国の辺境史に位置付け、独自の民族国家の歴史とは認めないとする研究活動を社会科学院の下で大々的に進めている。韓国側は中国の主張を認めた場合、民族国家としての歴史的ルーツを否定されるため「歴史歪曲(わいきょく)だ」と非難の声を強めている。

 すでに歴史関連の十七団体が「対策委員会」を発足させたほか、与野党共同で国会に中国非難の決議案が提出され、市民団体も百万人署名運動を始めている。

 マスコミも「中国には朝鮮族が住む東北地方だけではなく、北朝鮮にまで介入しうる歴史的名分を確保しようという高度の戦略的考慮が背景にある」(朝鮮日報社説)とか、古代に新羅が唐と戦った「羅唐戦争」を引き合いに「これは歴史をめぐる第二の羅唐戦争だ」(東亜日報論評)などと興奮しつつある。

 詩人の金芝河氏などはセミナーで「“物流と文流”の中心として東北アジアにルネサンスをもたらすわれわれと中国との間の歴史戦争だ」と気炎を上げている。

 また中国と北朝鮮が高句麗遺跡の世界文化遺産登録問題で争っているため「北朝鮮と協力して中国に対抗すべきだ」とし、北朝鮮との南北会談で北朝鮮側に共同対処を呼びかけるべきだといった主張も出ている。

 中国政府に対する遺憾・抗議の表明など外交的措置を求める声もあるが、韓国政府は日本との歴史教科書問題とは違って外交問題化を控えている。また中国大使館へのデモなど反中運動は起きていない。マスコミ論調も大勢は日本相手とは異なり「学術的対応」を主張し、早くも日本との間で設置された「歴史共同研究委員会」の韓中版を求める声も聞かれる。


東アジア新時代 黒田勝弘ソウル支局長・李御寧韓国元文化相対談(3−2)

2004.01.04 産経新聞社 東京朝刊 7頁 写有 (全4045字) 


 ■文化に誇り持って

 ■“陸”と“海”で橋渡しする韓国/痛みは未来への投資

 黒田 サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」では歴史的文脈から朝鮮半島は中国文明圏つまり大陸勢力に入れていますが、近代化以降を考えれば日本文明圏つまり海洋勢力になったといえますね。とくに一九四五年の分断以降は北朝鮮が閉ざされることによって韓国はいわば島になった。この結果、韓国ははっきりとした海洋勢力として日米と提携することになり、それが現在の韓国の発展につながったと思います。北朝鮮は先ごろ国連演説で日本の悪口をいおうと「島国日本」などといった言い方をしていました。韓国でも日本を非難するとき「島国根性」などといって留飲を下げますが、実は韓国は大陸から切り離されある種の「島国」になったことで成功したんですね。これに対し北朝鮮は中国や旧ソ連といった大陸勢力にくっついたから失敗した。

 李 これまでは確かにそういえます。それは世界がイギリスの産業革命以来、海洋勢力によって主導されてきたからです。この海洋勢力の時代は約二百年続いてきました。最近の中国の発展も沿岸部を中心にした開放政策つまり海外からの投資および対外貿易の急増で支えられているわけですから、中国も海洋勢力との提携で発展したといえるかもしれない。

 黒田 日本は歴史的にいうと、海洋勢力でありながら旧満州を支配し中国と長期戦を展開するという大陸への深入りで結局は失敗しました。朝鮮半島(韓国)の併合も、日本が本来そうなってはいけない大陸勢力化してしまったということで失敗だったといえる。そうした教訓から日本は戦後この方、海洋勢力つまり米英とはケンカしてはいけない、そして朝鮮半島を含め大陸にはあまり深入りしてはいけないと思ってきた。だから先生の「新・梅花文化圏」のお話をはじめ日韓中の三国によるEU並みの地域協力・統合の夢(?)が語られるとどこか戸惑いを感じるのですが。

 李 いや、これからはこの地域では中華覇権主義もよくないし日本式の旧・大東亜共栄圏もよくないということですよ。つまり大陸勢力と海洋勢力の覇権争いは困る。仲良くしてほしい。そこで中国の大陸文化と日本の海洋文化の間に韓国の半島文化がある。このような三つの文化が交流しながら二千年以上、共存してきたという地域は世界史的にも例がない。半島文化が強力に息づいているときには中国も日本も平和的だったけれど、大陸が海洋を、海洋が大陸を攻めようとするときは半島文化は存立が危うくなるんです。海洋文化の日本は半島文化つまり韓国の存在意義に注目してほしいということです。

 黒田 緩衝地帯、バランサー(調整役)としての朝鮮半島というのは今も昔も変わらないのでは…。

 李 いや昔の朝鮮半島は弱かった。とくに十九世紀あたりはそうです。だから「強力な半島文化」といっているのです。半島は大陸の一部になったり海洋の一部になったりしてはいけない。またそう思われてはいけない。半島は強力になってこそバランサーになれるし、それが日中双方にもプラスなんです。どちらかに入るという発想は困る。

 黒田 しかし韓国には反日感情はあっても反中感情はないようにみえます。最近の反米感情やある種の日本離れ、さらには中国ブームなどを考えれば、今後の韓国あるいは南北統一後の朝鮮半島はいずれ大陸勢力圏に行ってしまうのではないでしょうか。

 李 韓国人には中国人に対し“テノム”といって蔑視(べっし)することはなくはない。中国の正統ではない「清」などに対してはそうだった。しかし同じ周辺国でもベトナムなどに比べると反感はたいそう弱い。よく考えるとかなりひどいことをされているのだけれど、今も昔も脅威感はあまりない。むしろいつも与えられ、助けてくれる相手と思っており、中国サイドの文化主義的姿勢もあって中国には被支配意識を持たなかった。しかしだからといって簡単には大陸文化圏には戻らないと思います。日本の影響を含め近代百年の西洋化されたマナーや生活スタイル、つまり海洋文化の経験は大きい。現代韓国人の情緒は中国とは合いません。だから韓国を古代や中世のコンテキスト(脈絡)ではなく、近代のコンテキストで見てほしいですね。

                  ◇

 黒田 ただ最近、古代の高句麗(こうくり)の歴史をめぐって韓国と中国の間で歴史戦争(?)になっていますね。高句麗は旧満州など中国大陸に領土が広がった古代国家ですが、韓中がお互い自分たちの歴史の一部だと言い争っている。韓国人には民族のルーツとして北方大陸への郷愁があり、中国の方には拡張・膨張主義的なナショナリズムがある。韓国としては大陸勢力への回帰という感じがするんですが。

 李 先に話が出たように、近代以降の朝鮮半島そして韓国は大陸から切り離され海洋勢力として発展してきました。だから北方は“失われた大陸”だった。しかしそれ以前は千年以上にわたって大陸志向であり、韓国人の文化的DNAには深いところで大陸文化が残っている。それが近年、民主化で北朝鮮について「同じ民族」としてのある種の雪解け気分があり北の窓が開きつつあると感じている。そこから大陸勢力だった高句麗への郷愁と関心が強まっている。ただ回帰というよりこの間、海洋勢力に傾き過ぎたことからくる一種のバランス意識ですね。

 黒田 しかしこの問題は将来、統一コリアになれば領土問題にまで発展する可能性があるのではないでしょうか。中国は少数民族問題が大きな課題になっていますからね。今のところ高句麗ですが、その後の「渤海国」についても論争は広がることが予想される。歴史問題で韓国、中国から文句をいわれている日本としては実に興味深い。

 李 中国の場合、国家的発展を背景に周辺国との関係でナショナル・アイデンティティー(国家意識)を確立しようという、歴史的にはどこでもよくある動きですが、明らかに新たな中華意識です。古い過去の歴史についてはお互い大衆的な感情論ではなく学者、研究者の冷静な議論にとどめてほしいですね。

 黒田 ところで北朝鮮ですが、韓国−南朝鮮と文化的には同質ですか異質ですか。

 李 北朝鮮はもともと大陸の一部です。中国を「偉大な後方」といっている。だから南のわれわれは異質感を強く感じますね。海洋文化を経験していないせいからか明るさ柔らかさがない。自然環境としても、もともと遊牧・狩猟民族系の大陸文化で穏やかな稲作文化はなかった。そうした北方文化に共産主義というイデオロギーが加わり荒々しい。

 黒田 南北が統一すればどうなりますか。

 李 統一コリアが大陸の一部になり大陸文化圏に入ってしまうのはまずい。海洋文化と大陸文化のどちらか一方に偏っては朝鮮半島の独立性は保てない。これは日本にも中国にも韓国にも不幸です。これからの時代はわれわれ三国を含め世界は独立か依存かの二者択一ではなく“インターディペンデンス”(相互依存)でいかなければならない。お互い独立性を持ち、それを尊重し合いながら相互につながるネットワークの時代ということですね。

                  ◇

 黒田 さて日本ですが、ハンチントンは「日本文明」といい、その閉鎖性も指摘していますが、今後の日本の役割をどう考えますか。

 李 世界的視野で見たとき、アジアにおける海洋勢力として高度な近代化の達成という日本の成功は確かに「日本文明」といっていい。ただ孤立性に問題がある。戦前は大陸勢力との調整に失敗したし、戦後は経済で日本文明を世界に認識させたけれどバブル崩壊で今、苦しんでいる。前者についていえば韓国との関係をうまくすることで調和が可能になると思う。もう中国だけ日本だけという「独り勝ち」の一国主義はダメです。海洋文化と大陸文化の両方が分かる韓国をうまく使ってください。

 黒田 後者はどうですか。日本の再生、復活はありますか。

 李 日本は製造業−物作りで「日本文明」を世界に広げた。しかしその「過去の成功物語」にこだわっていてはいけない。これからは文化コンテンツです。日本文化の強さを世界にメッセージすべきです。私が実に残念に思うのは、たとえば「ポケモン」が世界的に成功した後、代表的キャラクターの「ピカチュウ」を米国のミッキーマウスのようになぜ育てなかったのかということです。世界の子供たちにとっては今まで大きな怪物(モンスター)がいつもアイドルだった。それをポケットに入るモンスターを創造しアイドルにした。英語ではない無国籍的な「ピカチュウ」の名前にも世界性、普遍性がある。これはすごいことです。だからポケモン文化論、ポケモン経済論が書かれてしかるべきなんです。

 黒田 鉄腕アトムは「宇宙少年アトム」として今でも韓国で人気です。アトムもポケモンも小さい。先生の名著『「縮み」志向の日本人』を思いだします。出版されてから約二十年たちますが、あらためて日本人への助言をお願いします。

 李 日本のある学者が言っていましたが、日本のノーベル賞は“縮み志向”の成果だというんですね。日本は拡大志向で二回、痛い経験をしました。一回は軍事的に次は経済的にです。しかし日本は“縮み志向の文化”で勝負すれば将来は明るいと思います。日本では「失われた十年」といっていますが、絶対そうではない。新しい日本を作る貴重な投資なんです。土地に投資した何十倍のものを今、投資している。そして日本人はずいぶん人間的になりました。一九四五年の敗戦の時も痛みから新しい日本が生まれたではないですか。今の痛みを経て生まれ変わるものが本当の日本ですよ。その際、やはり誇りは文化です。俳句でいえば、亡くなったわが子を思う俳句「トンボ釣り今日はどこまで行ったやら」あるいは「秋深き隣は何をする人ぞ」といった人間への深い思いやり、日本人はこんな素晴らしい文化を持った人たちではないですか。


中国“歴史戦争”強硬姿勢 高句麗遺物持ち出し逮捕 朝鮮族2人死刑

2004.01.08 産経新聞社 東京朝刊 1頁 総合1面 図有 (全923字) 


 【ソウル=黒田勝弘】古代・高句麗(こうくり)の歴史の帰属をめぐって韓国と中国の間で“歴史戦争”になっているが、ソウルの情報関係筋が七日、明らかにしたところによると、中国で昨年夏、中朝国境地帯の朝鮮族の住民が高句麗遺跡の遺物をひそかに北朝鮮に運び出して逮捕されうち二人が死刑になり、二人が懲役二十五年の判決を受ける事件があった。

 問題の遺物は高句麗の遺跡が集中している中朝国境地帯の吉林省集安にある四号古墳と五号古墳のもので、事件にかかわった朝鮮族住民たちは「このままではわれわれの祖先である高句麗の歴史が中国によって隠蔽(いんぺい)、破壊される」として北朝鮮に搬出したと主張したという。死刑の二人については長春ないし通化で銃殺されたとの情報もある。

 また事件後、中国側は古墳などが存在する現場一帯を新たな歴史的保存地域として立ち入り禁止にしたという。今回の中国当局の強硬措置は中国が高句麗問題をいかに重要視しているかを物語るものとして注目されている。

 一方、韓国マスコミによると、年末に現地を訪れた高句麗史跡ツアーの韓国人観光団に対し、中国側は古墳や城壁など遺跡への接近や写真撮影を許さず、高句麗遺物を展示した「集安博物館」も「雨漏りがしているから」として、見学できなかったと伝えている。

 この観光ツアーには高句麗問題で中国批判を強めている「高句麗研究会」所属の研究者たちも含まれており、中国側が韓国側の動きを警戒した結果ではないかとみられている。集安には古代日本(倭)と新羅(しらぎ)や高句麗との関係が記された有名な「広開土王碑」もあり、韓国人を含め観光対象になってきた。

 高句麗問題は紀元前後から七世紀にかけ中国・東北地方から朝鮮半島北部に存在した古代国家、高句麗の歴史をめぐる争い。韓国では昔から古代朝鮮民族の国家として誇ってきた。

 しかし中国側は最近、高句麗を中国支配圏の一辺境国家としてその歴史を中国の地方史と位置付ける研究活動を国家的レベルで大々的に進めているため、韓国側は強く反発、中国非難の動きが広がっている。この“歴史問題”の対立は韓中の外交問題にはなっていないが、ソウルでは新年になって中国大使館への抗議デモも始まっている。


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